企業年金と許容乖離率：資産評価の柔軟性を理解する

企業年金と許容乖離率：資産評価の柔軟性を理解する

企業年金における資産評価

企業年金は、長年の会社勤めを終えた後、従業員が安心して生活を送るための支えとなる大切な制度です。将来、年金として従業員に約束した金額を確実に支払っていくためには、年金基金のお金をしっかりと運用し、将来の支払いに備えておく必要があります。このために、企業年金では、定期的に保有している資産の価値を見直す作業を行っています。

資産の評価は、株式や債券のように市場で日々価格が変動するものは、その時点での市場価格に基づいて行われます。しかし、企業年金の資産には、株式や債券以外にも、ビルや土地といった不動産なども含まれます。不動産は、株式や債券のように毎日価格が変わるものではなく、市場での取引価格を把握することが容易ではありません。そのため、不動産については、専門の appraisal 会社に評価を依頼するなど、より複雑な評価方法が取られます。

このように、企業年金は、将来の年金給付を確実に実行するために、様々な資産を適切に評価し、その結果を踏まえて、年金基金の財務状況を分析し、今後の運用方針を決定していくのです。

数理的評価と時価の乖離

– 数理的評価と時価の乖離

企業年金の世界では、加入者の将来の年金給付を守るために、年金資産の適切な管理が非常に重要です。年金資産の価値は、定期的に評価し、その推移を把握する必要があります。しかし、株式や債券のように市場で日々取引され、価格が変動する資産とは異なり、市場価格の変動が把握しにくい資産も存在します。例えば、未公開株式や不動産などがその代表例です。これらの資産は、頻繁に市場で取引されるわけではないため、毎年の市場価格の調査が困難となる場合があります。

このような場合、企業年金では「数理的評価」という方法を用いて資産価値を算定することが認められています。数理的評価とは、過去のデータや将来の予測に基づいて、資産の現在価値を合理的に見積もる方法です。具体的には、将来の収益や費用、リスクなどを加味した上で、割引率などを用いて現在価値に換算します。この方法を用いることで、市場価格が把握しにくい資産についても、一定の合理性に基づいた評価を行うことができます。

しかし、数理的評価はあくまでも見積もりであるため、実際の市場価格（時価）とは乖離が生じることがあります。特に、経済状況や市場環境が大きく変化した場合、数理的評価で用いられる前提条件と実際の状況との間にズレが生じ、乖離が大きくなる可能性があります。このような乖離は、年金資産の過大評価や過小評価につながり、年金給付の安定性や企業の財務状況に影響を与える可能性もあるため注意が必要です。

許容乖離率とその役割

企業年金は、従業員の退職後の生活を支える重要な役割を担っています。将来の年金支給を確実に行うためには、企業は年金資産の運用状況を適切に把握し、健全な財政状態を維持する必要があります。
年金資産の価値は、株価や金利などの市場の動きに応じて変動する「時価」と、将来の年金支給に備えて割引率などを用いて算出される「数理的評価額」の二つで評価されます。
しかし、この二つの評価額が大きく乖離してしまうと、実際の企業年金の財政状況を正しく把握することが困難になります。
そこで、企業年金法では「許容乖離率」という制度を設け、時価と数理的評価額の乖離幅を一定の範囲内に収めることを義務付けています。許容乖離率は時価に対する割合で定められており、その上限は15％とされています。
つまり、数理的評価額が時価の85％から115％の範囲内に収まっていればよいということです。
この許容乖離率は、企業年金が市場環境の変化に柔軟に対応しながら、長期的な視点に立って安定的に資産運用を行うための枠組みとして機能しています。同時に、過度な乖離を防ぐことで、財政状況の透明性を確保し、年金加入者や企業の安心感を高める効果も期待できます。

時価との許容乖離幅

企業が保有する資産の価値は、常に変動する市場価格に影響を受けます。しかし、資産を常に最新の市場価格で評価することは、時間と費用がかかり現実的ではありません。そこで、企業会計では、取得原価主義を採用し、資産を原則として取得時の価格で記録し、時間の経過とともに減価償却していく方法が取られています。

一方で、市場価格と帳簿価額との間に大きな乖離が生じた場合、財務諸表の信頼性が損なわれる可能性があります。そこで、一定の条件を満たす固定資産については、定期的に市場価格に基づいて評価を行う「時価評価」が認められています。

ただし、時価評価を行う場合でも、評価額が市場価格と完全に一致する必要はありません。「時価との許容乖離幅」と呼ばれる範囲内で評価額を決定することが認められています。この許容乖離幅は、資産の種類や評価方法によって異なりますが、固定資産の場合は、一般的に時価に一定の許容乖離率を乗じた金額として定められています。

この制度により、企業は固定資産の評価においても、一定の柔軟性を持つことができます。例えば、不動産市場が大きく変動している場合でも、許容乖離幅の範囲内であれば、企業は必ずしも直ちに固定資産の帳簿価額を変更する必要はありません。これは、企業の財務報告における負担を軽減するとともに、市場の短期的な変動が財務諸表に与える影響を緩和する効果も期待できます。

まとめ

– 企業年金と許容乖離率企業年金は、従業員の老後の生活を支える重要な制度です。将来の年金支給を確実にするためには、積立金を適切に運用し、着実に資産を増やしていく必要があります。その資産運用において、「許容乖離率」は重要な役割を担っています。企業年金の資産は、定期的に評価され、その評価額に基づいて将来の年金支給額などが算出されます。この評価方法には、主に「時価」と「数理的評価額」の二つがあります。時価は、その時点での市場価格を反映した評価額ですが、市場の変動によって大きく変動する可能性があります。一方、数理的評価額は、将来の金利見通しなどを加味して算出されるため、時価に比べて安定的な評価額となります。許容乖離率とは、この時価と数理的評価額の差が、どれだけの割合まで許容されるかを示す指標です。この制度があることで、企業年金基金は、短期的な市場の変動に過度に左右されることなく、長期的な視点に立った安定的な運用を行うことが可能となります。しかし、市場環境が大きく変動する局面においては、数理的評価と時価の乖離が大きくなり、許容乖離率を超えてしまう可能性も考えられます。このような事態に備え、定期的に資産の評価状況を確認し、必要に応じて数理的評価の見直しを行うなど、適切な対応策を講じることが、企業年金基金には求められます。