ケインズの経済理論:有効需要の原理
1929年、世界は未曾有の経済危機に直面しました。これが世界恐慌です。人々がこれまで経験したことのない規模で経済は混乱し、従来の経済学ではこの状況を十分に説明することができませんでした。仕事を求めてもどこにもなく、街には失業者の姿があふれていました。工場は稼働を停止し、物を作る力も衰えていきました。人々の生活は困窮し、希望を見出すことさえ難しい時代でした。
このような暗澹たる時代の中、一筋の光を灯すかのように現れたのが、イギリスの経済学者、ジョン・メイナード・ケインズでした。彼は、1936年に出版した『雇用・利子および貨幣の一般理論』の中で、従来の経済学の常識を覆す、全く新しい理論を提唱したのです。これがケインズ経済学の誕生であり、世界恐慌後の世界経済を大きく変えることになる革命的な出来事でした。ケインズは、不況の真の原因は、需要、つまりモノやサービスにお金を払って需要する力が不足していることにあると主張しました。そして、政府が積極的に経済に介入し、公共事業などを実施することで需要を創出し、経済を活性化させるべきだと説いたのです。彼の理論は、当時の経済学者たちの常識を打ち破るものでしたが、世界恐慌による深刻な不況を克服するための有効な手段として、世界中で広く受け入れられるようになりました。